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イントロダクション
『風の奏の君へ』は、あさのあつこ原作「透き通った風が吹いて」を原案に、岡山県美作地域を舞台に同地で青春時代を過ごした大谷健太郎監督が映画化。岡山の情緒あふれる風景の中で綴られる感動のラブストーリー。
ヒロインの里香を演じた松下奈緒は、ミュージシャンでもある自身のキャリアを投じて劇中曲の作曲も手がけ、演奏シーンではもちろん吹き替えなしでピアノ演奏を披露。里香が兄の元恋人であると知りながら、惹かれていくのを止められない渓哉には、大河ドラマ「どうする家康」への出演が記憶に新しい杉野遥亮。その兄・淳也役のflumpoolボーカル山村隆太は、本作で映画デビューを果たした。
その他、渓哉の同級生役に西山潤、泉川実穂、岡山出身芸人のたける(東京ホテイソン)やYouTuberグループ フォーエイト48のリーダーこたつなど多彩なキャストと、兄弟の祖母役にベテラン・池上季実子が脇を固めている。
主題歌「いきづく feat. Nao Matsushita」は、flumpoolの阪井一生が作曲、山村隆太が作詞し松下奈緒とのコラボレーションで送る。本編ではすれ違い続けた里香と淳也に、爽やかなラストシーンを用意している。
ストーリー
岡山県・美作の緑豊かな山々のふもと。古き良き趣を残す町並みに温泉を携え、お茶処でもあるこの地で、浪人の渓哉(杉野遥亮)は無気力な日々を過ごしていた。一方、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いだ兄の淳也は、日本茶の魅力で町を盛り上げようと尽力していた。
かつて野球に捧げた情熱は燃え尽き、勉強にも身が入らずにいたある日、ピアニストの里香(松下奈緒)がコンサートツアーでやって来ることを知った渓哉。里香はかつて兄の淳也(山村隆太)が東京での大学時代に交際していた元恋人だった。
コンサート会場の客席で渓哉が見守る中、舞台上で倒れてしまった里香。療養を兼ねてしばらく美作に滞在することになった里香を、渓哉は自宅の空き部屋に招待する。突然現れた昔の恋人を冷たく突き放す淳也に、「あなたには迷惑はかけない」と告げる里香。こうして少し風変わりな共同生活が始まった。
清らかに流れる川を吹き抜ける風、燃えるような緑の美しい茶畑。自然の優しさに囲まれて曲作りに励む里香に、ほのかな恋心を募らせる渓哉。しかし里香にはどうしてもこの場所に来なければならない理由があった……。
プロダクションノート
美作発のプロジェクト
2011年から2016年まで、岡山県・美作みまさか市で開催されていた美作市映像大賞。この映像コンテストで審査員をつとめていたのが、共に美作出身である大谷健太郎監督と小説家のあさのあつこ氏だ。
美作市の風景や人々がおさめられた応募映像の数々に触れ、青春時代をすごした場所の魅力を再発見する体験は、過去を振り返らないことを信条に生きてきた大谷監督の心を大いに揺さぶる。美作から受け取ったものを故郷に還元していきたいという思いはあさの氏も同じだった。こうして美作を舞台にした小説をあさの氏が書き、それを原案として大谷監督が映画を撮る企画がスタートした。
ストーリーに隠された監督の知られざる実体験
大谷監督は本作を「若者の成長物語として描きたかった」という。そのきっかけとなるのが恋愛だ。これから人生を始めようとしている青年と、人生を終えようとしている女性。二人の異なるベクトルがクロスする瞬間にドラマが生まれる。
実はこの物語の背景には、監督人生で初めて明かすというある体験が深く関わっていた。大谷監督の父親はかつて美作市を選挙区として岡山県会議員選に出馬しており、春休みに東京の大学から帰省して選挙活動を手伝っていた大谷監督は、落選して悔し涙を流す父親を目撃する。「生まれて初めて親父が泣いている姿を見たんです。親父の夢が終わった瞬間を目の当たりにして、自分は自分の道を見つけていかなきゃ駄目だと思った。そこから本気で映画を作ってやるとスイッチが入って、その年の夏休みに撮った作品がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に入選したことから映画監督になったんです。あのときの親父の姿が、淳也には投影されているかもしれません。映画のラストで美作を出て行く渓哉には、自分が東京に戻るときに味わったものと同じ感情を託しています」
映画の核を担った松下奈緒のキャスティング
脚本を受け取った大和田廣樹プロデューサーは、里香を演じられるのは松下奈緒しかいないと確信する。かつてテレビ番組の取材でモナコを訪れた松下は、女優からモナコ公妃に転身したグレース・ケリーの足取りにインスピレーションを受け、彼女の人生をモチーフに作った曲を自身のアルバムに収録していた。そのエピソードが、大和田プロデューサーの中で、自分の一生を曲にぶつける里香と重なった。松下も自ら音楽を作り出す里香を演じることに意欲を示し、劇中曲の作曲、ピアノの演奏、主題歌の歌唱までをも勤め上げた。
街ぐるみの映画づくり
撮影は美作市を中心に全編岡山ロケ、茶葉の新芽の緑が最も鮮やかな春の季節に合わせて行われた。見せ場の一つである茶香服のシーンは、若い男性が一番傷つく瞬間にしたかったと大谷監督は語る。「渓哉が自分を見ていない里香に気づいたとき、まさにそれだよねという顔を杉野(遥亮)君がしてくれているんです。劇中ではほんの一瞬で成長してしまう若者の触れ幅を見せたかったのですが、少年から大人になっていく表情のグラデーションが見事でした」
また、製茶工場で淳也が渓哉に心情を吐露するシーンでは、淳也を演じた山村隆太に敢えて演出らしいことをせず委ねた。「ここまで隠し通したことを最後に全て吐き出してくださいとだけ伝えました。今まで毅然と弟の前に立っていた存在が崩れていく様を、本人の思うようにやってもらうことで、泣くというアクションに結びついたのがよかったなと思います」
クライマックスで里香がピアノを弾く体育館は大谷監督の母校である林野高校。大谷監督自身が高校時代に文化祭でピアノを披露した場所(劇中で使われているのは建て替えられたもの)でもあり、ここで演奏シーンを撮りたいという当初からの強い願いが実現した。
それぞれの人生に吹く風
この映画は里香の帽子を飛ばす風で始まり、旅立つ渓哉を桜の花吹雪で見送る風で終わる。そこには故郷の原風景に生と死を見つめる大谷監督の思いが込められている。「誰しも人生を決定的に形作るような出会いがあって、いつかそこに立ち返るときが必ず来ます。自分が育った土地の風土を振り返りながら、そのかけがえのない瞬間を、この映画で体感して欲しいなと思います」
劇中楽曲
オープニングテーマ
「小さな奇跡 ~Un petit miracle~」
作曲:松下奈緒
編曲:河野伸
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
エンディングテーマ
「風の奏の君へ」
作曲:松下奈緒
編曲:河野伸
(ソニー・ミュージックレーベルズ)
主題歌
「いきづく feat. Nao Matsushita」
アーティスト名:flumpool
作詞:山村隆太
作曲:阪井一生
編曲:トオミヨウ
(A-Sketch)